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『僧侶でありイラストレーター』、
京都三条・瑞泉寺にて二足のわらじを履く中川学をクローズアップ。
個展『京都慕情』を開催するにあたって、2つの顔に中川氏自身が向き合うようなインタビューになりました。


photo(vision track) 庄野裕晃 interview & text:西村智亜希(vision track)  

西村:中川さんが瑞泉寺の僧侶になられた経緯をお話いただけますか?

中川:生まれてきてみればお寺の子供でした。
小学生のときに得度式(お坊さんになる儀式)を受けてから、高校生で加行という修行を受け、大学では仏教文化を学び、在学中に宗派の教えを学びました。
こうお話すると坊主になるべくして進んできたようですが、実際はそうでもなかったです。当時は坊主になるのがイヤで(笑)、なんとか出て行く術はないものか、と思っていました。実際に就職活動をして、大学卒業後は一般の企業に就職しましたし。


西村:ということは、サラリーマンを経験していらっしゃるということですよね?

中川:そうですね。30歳になるまでは一企業の社員でした。
結局はサラリーマンに挫折して、坊主の道に戻ることになります。


西村:なるほど。ではイラストレーターになられた経緯を教えて下さい。

中川:子供の頃から絵を描くのが好きでした。将来はマンガ家やアニメの仕事につきたい、思うオタクな少年でした(笑)。大学を卒業する頃、絵しか描けない人間ではイカンと思うようになり、それに坊主になりたくなかった事もあり、絵を描く事に関連した仕事に就きたいと思うようになって。
それで、当時花形だった広告の世界に入ろうと思い、リクルートに入社して求人広告のディレクターになりました。ここで培った広告についてのコンセプトワークが、イラストレーションを描く上でも役立っていると思います。


西村:その広告制作の現場で、絵への画力が発揮されたというわけですか?

中川:最初は、指示を出したりする際に絵を描いていたんです。
それがいつの間にか自分で広告のカットなども描くようになり、
社内で他のディレクターからもイラストを頼まれるようになりました。

西村:ごく自然な流れですね。

中川:そうですね。30歳に近づいた頃には、サラリーマン生活や広告制作へのモヤモヤが募っていた、という心境もありまして。月のイラスト料を換算したら給料より多いという事に気付いたタイミングで、そのまま独立しました。


西村:その大きな転機を迎えた事で、『二足のわらじ』を履く生活へシフトされたのですね。

中川:ええ。イラストレーターとしての独立と同時にお寺に帰ったので、
イラストレーターと僧侶はまったく同時スタートになります。


西村:普段の『二足のわらじ』生活について少しお話いただけますか?

中川:晴耕雨読ではありませんが、お寺が忙しいときはお寺の作務をし、それ以外のときは絵を描いています。具体的に言うと、朝、庭の掃除をし御本尊にお経をあげ、午前中法事のあるときは法事をし、午后から夜にかけてはお寺の留守番を兼ねて絵の仕事をしています。


西村:僧侶とイラストレーター、その響きからも全く違う職業に映るのですが、中川さんにとっては
この2つが影響し合う事で生まれる物はありますか?

中川:僕にとって絵を描く仕事は修行のようなものかもしれません。
締め切りを抱えながらお寺の仕事もあるので、精神的に鍛えられる、というのもありますが(笑)。僕は最終的にとらわれのない、自由な絵を描けるようになりたいと思ってますし、それは結局、世の中のなりたちの秘密を知りたい、ということかもしれません。

西村:その2つの職業だからこそ持てる作品性はやはりあるとご自身でも思われます?

中川:よくわかりませんが、いわゆる聖と俗のどちらの目でも物事を見れるような立場なので、それが作品に表現できたらおもしろいな、とは思います。


西村:中川さんが作品を通して表現されたいこと、されてきたことについてお聞かせ下さい。

中川:ポップな表現をしていきたいと思っています。
一見楽しいだけだけれど、よく見ると深いものがあるような絵が描きたいです。
また、僕の見たものの独自性をそのまま表現できるようになりたいと思います。
それから失われてしまったものの見方に興味があるんです。例えば、浮世絵や昔の図案の中にある、今では忘れられてしまった物事の表現法をデジタルで再現したいとも思います。とにかく、一杯あります(笑)。

西村:『僧侶さんが絵を描く=画材は筆』という勝手なイメージがあったのですが、中川さんの作品は、 MACを使って描かれていますよね?

中川:自分の絵の個性とは何か?と考えていた時に、筆で描くとかパステルを使うとかいう事でタッチを出すのではなく、なるべく自分の中の過剰なものをそぎ落としていけば最後に自分らしさが残るのではないか?と思っているんです。


西村:なるべくシンプルな表現方法を使いたいということですよね。

中川:ええ。そんな時に出会ったillustratorというソフトは何の個性もない線とベタ面しか描けないという不自由なものですよね。最初必要にかられて使わざるを得なかったんですが、これがそぎ落としに最適であることにあるとき気づきました。全く無機質な線と面で、有機的な線を描きだす事は、絵というものの本質をついているとも思っています。

西村;なるほど、中川さんにそう言われるとillustratorがPC!デジタル!という感覚ではなくなります。

中川:実は、コンピューターで描くという行為は、仏教的だと思っています。画面上に表れているものは絵のような具象をとっていても、実際は0と1のみで構成される数式のようなもので成り立っています。
仏教ではこの世を顕と密の二つの見方でとらえられると言ったりしますが、それに近いような気がするんです。もしくは「空」の考え方に。


西村:京都という土地柄ならではのお仕事(お寺のポスターや新京極のポ スターなど)について、どういう風に受け止めていらっしゃいますか?

中川:「京都」は『お寺」と「絵」と並んで僕を縛ってきたものの一つで、以前は逃げ出したかったものです。結局舞い戻って来たときに、これは逆に「縁」だと思い返し、そこからようやく京都に向きあった感じです。

西村:それでは逆に、完全に若者をターゲットにしたお仕事(CITYMAPやPOPハガキ)についてはどういう風に受け止めていらっしゃいますか?

中川:僕の絵は浮世絵や古い日本の図案などからインスピレーションを受けています。その表現方法を現代的な風景や人物に当てはめて行くことで、新しいものが生まれてくればと思ってます。また、若者向けに描く場合は、より自由な絵を描くような実験をかならずどこかでしてみています。年輩の方よりも柔軟に受け入れてくれるからです。


西村:さて、今回の個展についてです。今回の作品展を行う事になられ たきっかけを教えていただけますか?

中川:イラストレーター稼業に入って来年で10年を迎えます。また同時に京都・お寺に帰ってきて10年。ここらで一度自分がそれらに対して、どの辺まで来たのかを確認してみたいと思い、人の勧めもあり、京都をテーマにした絵を自分の住むお寺で展示しよう、という経緯です。

西村:『京都慕情』を通じて特に表現されたかった事はありますか?

中川:実はあまり京都の観光地とか知らないんです(笑)
ですので逆に、京都で育った僕だけが見てきた京都を描いてみたいと思っています。きれいなところも、みにくいところも、今ならポップに表現できるのではないかと思っています。記憶の中の京都を描くので、結局自分と向き合うはめになりそうですね。


西村:中川さんの僧侶としての顔を覗かせていただける瑞泉寺を、今回の個展のギャラリーとして選んだのはどうしてでしょう?

中川:これまで以上に、絵とお寺とを渾然一体としたものとして向き合うために、あえて自分のお寺でやってみることにしました。10年目の自分の立ち位置の再確認のためと、さらにその先に進むためのリハビリみたいなものでしょうか。

西村:京都の由緒あるお寺の新しい取り組みとして斬新ですよね。

中川:お寺のあり方の模索ということでも、一つの実験になればと思っているんです。誰でもぶらっと来れて、なんとなくぼーっとできて、なにかすっとして帰ってもらえるような、タイとかベトナムとかのお寺のような、ゆるいけど癒されるお寺になれないかな?と思っています。

西村:最後に今後の展望をお聞かせ下さい。

中川:とにかく自由な絵を描けるよう精進したいと思います。

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